一夜で終わりを迎えた愛
暫くするとまた僕の方に寄って来て、なのにまっすぐ向かってくるわけでもなく僕の右側にきたり左側にきたりしながら、僕との距離を徐々に徐々に短くしていき、まるで誘惑するかのような声で鳴くのだが、撫でてやろうとするとやはり猫はびっくりしたように遠ざかってしまう。
こんなやりとりが3回ほど続き途方に暮れていた僕は何もせずじっと待っていることにした。
予想通り猫はジリジリと近づいて来て、僕の真横まで来たが、人懐っこく僕を見つめるわけでもなくそっぽを向いている。猫は綺麗な灰色だった。
しかしその綺麗なグレーの毛並みをもう一度撫でようとしてもまた逃げるだろうから、僕はじっと待っていることにした
待っていて気付いたが、猫は僕の指を舐めようとしているように思えた。
そして猫がどんどん顔を近づけてきたこの時ふと、猫が僕の指を噛まれるのではないかという恐怖が頭に過ぎり、不安でいっぱいになって逃げようかどうしようか必死で考えていると、たまたま自転車が通りかかったため道の真ん中にしゃがんでいた僕は止む無く猫から離れた。
猫も一旦離れた。
どこか少しほっとしている自分がいた。
そして自転車が通り過ぎて再び猫を見ると、遠くからだとやはりこちらを見ている。
ふと、この猫はお腹が空いて餌が欲しいんじゃないか?と思った。
確かに野良猫が何を食べているのか知らないが、自然界で食べていくことは楽ではないことは確かだろう。
そう考えると今までの猫の不思議な行動に合点が行き、気持ちが晴れやかになった。
そう得心するのが楽だったのかもしれない。
コンビニで猫が食べやすそうなお菓子を買い、もうあの猫はいないのではないかと不安になりながら急ぎ足で先ほどの場所に戻ると、猫はやはりそこにいた。
しかし、先程のようにその「猫」一匹だけでは無く、周りに小さい猫が沢山うろうろしていた。
僕の心はすっきりした。
「猫」はこの子供達の餌のために僕に懇願していて、そして僕はその願いを叶えてあげることができると思ったからだ。
そしてお菓子の欠片を投げた。
お菓子は少し「猫」の手前に落ちて、小さい猫がそれをサッと広い咥えまた向こうに行った。
お菓子はまだまだ沢山あるので僕は次々と投げていった。
子猫達はそのお菓子を懸命に食べ、投げていると他の猫まで集まって来ては欠片を咥えて消えて行ったが、肝心のその「猫」は一向に動こうとしない。
「猫」の前には何個もお菓子の欠片が転がっている。
そして、最後となったお菓子はその猫の真ん前に落ちたが、やはり食べてはくれなかった。
「猫」はもうこちらには来てはくれなかった。
鳴いてもくれなかった。
そしてやっと僕は自分の失態に気付き、その場から立ち去った。
結局僕は、愛情に対して物で応じるしか出来ない臆病者だったのだ。